2011-12-21

『いま、世界を変えている日本人』 カンボジア 青木健太さん⑤

《未来の事について》

Q、「遠い未来の事はおいておいて、先々の事で考えている
目標やイメージを聞かせて欲しいんですが?」

「いくつかありますね。
もちろん今燃えていて、大変なのは
コミュニティファクトリー事業を自立させることですよね。
そのためには僕の働き方も変わって行かなければならないし。
一年半ぐらいは頑張る。

ですけど、同時に興味があるのは、カンボジアに進出する日系企業への
人材紹介みたいなことなんです。

かものはしは6年半カンボジアで活動してきて、
それなりに現地に雇用も生みだしてきたんですけど、
それでも雇ってたかだか150人ぐらいだと思うんですね。
勿論150人という数も立派なものだとは思いますけれど、
同時にもっと上手くやる方法があるんじゃないかなって思うんですよね。

そこで考えているのが、カンボジアへ進出する日系企業への人材紹介なんです。
いますごい勢いで日本企業が進出してきているんですよ。
例えば味の素さんとか、あとはモーターとかを造ってるM社さんとかですね。
そういった企業さんは、めっちゃ人材募集するんですよ。
『ワーカーさんを1000人募集します』とかね。
でも、集まらなかったり、定着しなかったりするんですよ。」

K 「へぇ~」

「味の素なら知ってるけど、M社って言われても彼らは何の会社かも
解らないですよね。日本人でも解らない人が多いと思うしね。
同時に企業側も農村に入って行って話をしたりはしないんですよね。
『あれ、仕事無いから募集したらくるんじゃないの?』って感じですよね。
そこにミスマッチがあるんですよね。一方でNGOは雇用を創りたいのに。」

K 「なるほど。」

「うち(かものはし)が一人一人に雇用を創るのはすごく大変なんですよ。
200人雇用するならそれだけのビジネスを創らなきゃいけない。
けどM社の採用を手伝って200人を雇用させるならやりやすいじゃないですか?」

K 「ありですね」

「10年ぐらいは日系企業の進出は続くと思うので、採用と定着、
あとはお金にはならないけど彼らが自立するためのライフスキルの提供、
こういったことを絡めて1000人、10000人っていう雇用に関わって、
その中に最貧困層も混ぜ込める、となったら面白いなと考えています。」

K 「非常にインパクトも大きいし、現実的ですよね。
その辺が目下の関心事ってことですね。」

「そうですね。その辺りで事業を創れるかどうかで、
創れないなら諦めて日本に帰ろうかなと思ってます。」

K 「中長期にわたって、ご自身として夢に近いものはなんですか?」

「長期で言えば、人が変わる姿を見ていきたいってことですし、
中期で言えば、今お話した事業が立ちあげられるかどうかが気になっているところだし
その間くらいには、先ほどお話した師匠のような方々を一緒に仕事をしてみたいし、
そういうと、結構あるな~(笑)」

K 「そうですね(笑)」

「といった、仕事軸の話と、家族軸の話ですね。
やっぱり家族あっての・・・だと思っているので(笑)
早くどこでもドアでも出来れば良いのにね(笑)」

K 「どういう仕事をするにせよ人が変わって行く何かに
関わり続けて行きたいということなんですね?」

「そうですね。ただ、現場との距離感は変わってくるかもしれません。
もっと現場に近いかもしれないし、
もっと現場から離れてインパクトを重視するかもしれない。
今はギリギリ名前が覚えられるとか、
実感がある範囲でやりたいなと思ってますね。」

K 「なるほど」

「けど、単にあれだね。
うちの工房に行くとワーカーさん達が『ケンタ、ケンタ』って
声かけてくれるのが嬉しい。」

K 「それは嬉しいですね~。
現場って言葉が出たので、ひとつ質問なんですが、
日本とカンボジアのギャップって感じますか?
具体的にはかものはしのサポート会員の方々と
現場が抱えているもののギャップですね。」

「もちろん現場のことを解ってもらえているかといえば、
難しいですよね。こちらも発信し切れていない。
現場の苦労とか、何が大変かとかね。
なんていうのかリアリティがね、なかなか伝わってはいない。

例えば、現場のカンボジア人スタッフとかは
本気でかものはしのミッションに共感して入ってきているだけじゃなくて、
いわゆる外資系企業の一つとして入ってきているわけだから、
ジョブホッピングしていくわけですよ。
そういうレベルのリアリティは(日本の方には)解ってはもらえないですよね。
もちろんギャップはあって当然で、
全部が全部を理解してもらう必要はないと思うし。」

K 「そうですね。」

「ただもうちょっと身近に感じられるようになったり、
好きになったりしたら、応援し甲斐が出てくるんだろうなとは思います。
それはこちらの努力不足なんですけどね。」

K 「そういったギャップがあることで、
ミッションとは逆のことが現地で起こったりすることはありますか?」

「それはね。気をつけなきゃあるでしょうね。
誰を向いて仕事をするかっていうときに、サポーターの現時点での満足だけを考えたら
段々と現地でやりたいことと離れていくことはあるかもしれない。

でも、長い目でちゃんと現地の事を知ってほしいし、
かものはしの事を真面目に知って応援してほしいし、
それをこちら側が望むかの話ですよね。

だから、財務状況なんかは文句が出なくてもきちんと公開するし、
そういう情報発信は結構本気でやりたいと思ってるし、
そこをやるかじゃないですかね?」

K 「そうですね。」

「それが無かったら、ドナーからすればやっぱり
解り易いものが良いよってことになりますよね。
例えば『学校を建てたい』とかね。

日本で支援する側のあるべき支援像ってあるじゃないですか、
それが現場の状況が変化しているのに対して、
あまり変化していないと感じるんですよね。

寄付慣れしていない日本人もいるし、
説明し慣れしていないNGOも多いと思いますね。

だって学校は売りやすいですもん。
だから学校を建てて売っているNGOはあるけど、
本当はただ学校が建てたいんじゃなくて、
良い学校を創りたいはずですよね。

『だから良い学校って何ですか?』って話をある程度真面目にしないとね。
寄付をする側から歩み寄ってくることはないでしょう。
だからNGO側からきちんと説明をしていかないと思いますね。」

K 「なるほどね。」

「もう一つNGO側の課題として、問題が変わってきているのに、
それに気付かないふりをするというのは最悪ですね。」

K 「やっぱり、それはあるんですね?」

「例えば、僕達がここで児童買春問題に取り組んでいて、
けれど、その結果、数がどう変化しているかは解らないんですよ。
NGO関係者誰に聞いても、悪くなったとも、良くなったとも言わないですよ。
けれど、実際売春宿に客のふりして子ども出してっていうと
『今は法律が厳しいから無理』
とか言われるわけですよ。」

K 「なるほど」

「でも、言えるんですよね。
『この問題はアンダーグラウンドにいっただけで、いまでも大変なんです』
って。それは事実でもあるけど、どこかで嘘になったり、
効率が悪い話になったりするわけですよね。

それよりは被害者のケアの方に事業を変更しようよとか、
そういう話になるはずなのに、
そのソーシャルアジェンダの設定が変わってきていることを見ない。
うすうす勘づいてはいるけど、見ない。
『そんな余裕ないよ』とか言ってね。
そういったことは気をつけないと起こり得る話だなと思ってますね。」

K 「そうですよね。あらゆる非営利団体に言える事だと思います。」

「うちなんか、児童買春問題が世の中から無くなれば
解散すれば良いんですよ。嬉しい!ってパーティしてね。
解決するつもりでやってるんだから、解決すれば、無くなれば良いって話でしょう。
そういう緊張感が無いとやっぱり駄目ですよね。」

K 「かものはしの皆さんのように自らリスクテイクして
始められている方にはそういった方は見られないですけどね。」

「リスクテイクって言われましたけど、
僕はね実はリスクヘッジしてると思ってるんですよね。」

K 「そうですね。」

「本気でやれてるかどうか?本気でやって成長しているか?
ってのが大切なんですよ。
その方が中期的に安定してくると思ってるんですよね。」

K 「なるほど。」

「本気でやることの方が全然リスク少ない。
だから挑戦することの方がリスクが少なくて、
挑戦しないことの方がリスクが大きいと思っていますよ。

K 「その通りですね。」

「世の中一般のお金に関するリスクとかそういったものじゃ、
人間は死なないんですよね。それに加えて、共働きだし(笑)
奥さんが、しっかりしてるし(笑)」

奥様 「そうか、中期的には安定するのか(笑)」

「中期的には絶対幸せにするから、全く問題ない(笑)」

K 「長期的にはどうなんですか?」

「良い感じで死ぬ(笑)」

K 「でも、いまの考え方が一番重要ですよね。」

「そうですね。よく人から不安じゃないですか?とか、
よくリスクを取りましたね?とか言われるけど
自分はそんな感じはしていない。」

K 「それは僕自身もそう思ってて、、」

「じゃなきゃ、会社辞めないですよね(笑)?」

K 「会社に留まり続けることの方が、
リスクだと考えるから辞めるわけでね。」

「そうですね。」


Q、「最後に高校生ぐらいの年代の若者にアドバイスをするとしたら?」

「うちにスタディツアーで大学一、二年生とかが良く来るんです。
その中に国際協力がやりたいって子が多いんでうけど、
その子たちの話を聞いていると、考えている国際協力のハードルが高いんですよね。
国連 or not!みたいなね(笑)」

K 「or not ね!」

「本当は国際協力なんていくらでもやり方はある。
やり方や生き方、在り方の問題なので。」

K 「そうですね。」

「でも、なんでも多分そうで、結構高校生や大学生の頃には
社会の事とか解らないし、見えないんですけど
実際は、結構なんでもありなんですよね。
僕なんかが生きているってのがそもそも良い証拠で(笑)
そういう意味ではどこから始めてもいいし、
50歳、60歳から起業してイケてる人も結構いるじゃないですか?」

K 「そうですね。」

「だから、何でもいいと思うんですよね。
何かの本に書いてあったけど、
人生は自分がやりたいことをやってると結構時間があるし、
そうじゃないと結構短いよって話ですよね。」

K 「なるほど。」

「うちの子たちなんて20歳とかで工房に来て、
最初は読み書きも出来ない子が、チームリーダーとかやっちゃうわけですよ。
あの変わり様を見てるから、日本の大学や高校を出ていて
『何を言っとんじゃお前』って思っちゃいますよね。
だから、何でもありって思ってもらった方が良いのかなと思いますね。」

K 「なんでもありって凄く説得力あるな~(笑)」

「代々木公園で炊き出しの手伝いとかして感じることでもあるけど、
日本で餓死とかあんまりないでしょう。
そういう中で、何が本当のリスクを見えなくするか?って、
僕はやっぱり変なプライドだと思うんですよ。
年収はいくらなければいけないとか、
女性よりも男性の方が稼がなければいけないとか、
良い車に乗ってなきゃいけないとかね。

そういうプライドがあることで頑張れるってことなら
良いと思うんですけど、妙にこだわりが多い人もいるじゃないですか?
極端に言えば『良い車に乗れなきゃ、自分の人生失敗した』とか考える人がいると
凄く勿体無いなって思うんですよ。」

K 「なるほど」

「やっぱりプライドを持つ部分を絞った方がいいと思っていて、
ぼくなんかは『本気で仕事をできているかどうか』
にしかプライドを持っていないので、
それ以外のことは、まぁどうでもいいんですよ。」

K 「わかる。」

「もう一つ思うのは、カンボジアの農村で生まれて
小学校を途中で辞めた子と仕事をしているとね、
日本で何も考えずにとりあえず大学まで行けたって、
その時点で相当幸せなことですよね。」

K 「そうですね。」

「まず、幸せなんですよ。先に幸せがある。
その中で年収とかがどう影響するんですか?っていう話でね。
だからそういう意味でのこだわりは少ない方が良いと思う。」

K 「うん。」

「あとはね、人生ってコントロールできないじゃないですか?
僕自身ここで仕事してるとは全く想像もできなかったですしね。
まさが、学校辞めてNGOやってるとは思わなかったし。
人とのご縁とかってコントロールできないでしょう。
だから、あんまりキャリアプランニングとかしすぎないことじゃないでしょうか。」

K 「ちなみに青木さんが一番プライドを持つのはどこですか?」

「自分が一番信じられるミッションの中で、
本気でワクワクして仕事しているかどうか?
信じられるミッションていうのは、僕の場合わりと公共性があるもので、
児童買春問題って自分で迷う必要がないんですよ。
だって明らかにきついっしょ、みたいなね。
被害にあってる子の事を考えるとキツイでしょ。
だから、児童買春を無くすために何かをするってなったら、
全然迷わなくて済む。」

K 「確かに。長々と大変ありがとうございました。

― 完 ―

補足: 「」のみ=青木さん、K=賢太郎、奥様=青木さんの奥様

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