2011-07-29

「大盛りにしといたのよ!」 世界達人列伝 タイ国鉄の女

みなさんはご存じだろうか?

バンコクからシンガポールへ鉄道で南下する
いわゆる「マレー鉄道」の存在を。

名前は聞いたことがある人も多いだろう。

実際にはタイ国鉄とマレーシア国鉄の二つの会社により運営される
国際路線であり、マレー鉄道の名は通称である。

今回はそのマレー鉄道内で出逢った達人をご紹介。

その日私たち夫婦は
バンコクを14時に出発する列車に乗り込んだ。

チケットは寝台席で、日中は座席として使用でき、
夜には上下団のベットへと早変わりするというものでした。

乗り込んで早々、向かいの席の中国人のおばちゃんたちと
つたない中国語で仲良くなり、約20時間に及ぶ列車旅も
とても快適なものになりそうな、そんな予感がしていました。

あの時までは・・・。

車窓に流れる風景に見とれていた夕方5時ごろ、
車掌服を着たおばちゃんが
おもむろに私たちの席に近づいてきます。

そして
「晩御飯だけど、列車で食べるとお得よ?」
と満面の笑みでメニュー表を私たちに見せてきました。

どこかで弁当でも買えるやろ。
そう考え晩御飯の用意もしていなかった私たち。
メニュー表の値段を(ちらっと)見て

「まぁ、少し高めやけど(200バーツくらい)せっかくやし列車で食べようか?」
「(嫁)そうね、結構美味しそうやしね。」

ということになり、トムヤムクンセットなどを注文。

「食事の時間になったら運んでくるから」
という言葉を残し、おばちゃんは一旦去って行った。

約一時間たったころ再びおばちゃんが登場し、
食事用に机(各席に備え付いている)をセット。
小分けされた料理を丁寧に並べてくれ、
さながら食堂車の雰囲気を演出してくれる。

それらの作業が一通り終わるとおばちゃんは
またまた素敵な笑顔で

「250バーツよ」

と手を出してきた。

一瞬
「あれ?意外と高いな?」
と思ったものの

料理の到着を「いまか」とを待ちわびている他の乗客の手前もあり

「はい、じゃ250バーツね」
といって支払いを済ませた私。

なにはともあれ、これでディナーを楽しめる!
ということで食事を始める私たち。

しかし、食べ進むほどに、美味しい食事とは裏腹に
段々むずがゆい感情が広がっていきます。

「なぁ、これやっぱちょっと高すぎん?」

「そうやね。もしかしたらやられた(ボラれた)かもよ」

「というか、確実にやられたな。」

私の心にあったモヤモヤは確信を帯びてきました。
けれど、まだ
「でも、国鉄やし、そんなことするかな?」
「何より、あのおばちゃんの素敵な笑顔を信じたい。」
という気持ちと

「けど、どう考えても200バーツ位にしかならんもんな」
という気持ちが綱引きをしています。

そうこう心の中で葛藤していると、
食事が済んだ様子をみて
再びおばちゃんが登場。

「美味しかったでしょう?」

と再び満面の笑みで語りかけながら、
お皿を片づけて行きます。

「ええんや、これでええんや。」
「疑ったらいかん、誰かさんも信じる者は救われるって言ってたし。」

とかなんとか、僕は心の中で何度もそう唱え
モヤモヤを押し込めていました。

しかし、その後もモヤモヤは心の中で僕に問いかけてきます。

「ホントにいいのか?ここで引き下がったら、
あのおばちゃん次の日本人もボッタくるぞ」

「けど、確証もないし・・・」

「やったら、メニューもう一回だけ見ればいいやん。
そして値段確認だけすればいいやん」

「確かに・・・」
などといった心の葛藤を経て、私はついに勇気を出して
再度通りかかったおばちゃんに言ったのです。

「ちょっと、さっきのメニュー見せてもらえませんか?」

次の瞬間

ギクっ!!!!!

はっきりとそう音が聞こえそうなほどの
オバちゃんのリアクション!!!

(やっぱり、ヤリやがったな~!!)
それを見て私も徐々に興奮してきました。

それでも、百戦錬磨のおばちゃん、
平静を装いつつ、必死にごまかそうとして

「ハイ、メニューです(真顔で)」

とコーヒーとかの値段が乗った軽食メニューを出してきた。

「ちゃうちゃう、さっきのや!さっき食べた夕食のメニューや!」
と興奮を抑えつつ、オバちゃんに訴える私、
オバちゃんしぶしぶ夕食のメニューを出します。

それをじっと見る私。

そして自分たちの頼んだものの値段を計算すると
どう見ても40バーツ以上多く払っていることは明らか!

「助けていいんだとわかった時の あいつらの強さに 限度なんてないんだからっ」
というONE PIECEのナミのセリフを思い出しつつ、

いま、確信をもった私はオバちゃんを問い詰めます!

「いや、僕らが頼んだのコレとコレでしょ!コレとコレだと
合計してもコレだけにしかならんでしょ?」

「てか、ここにあるどのメニュー足しても250バーツにはならんでしょうが~~!」


オバちゃんピンチ!!

一生懸命計算する(フリ)!!

「コレとコレを足してコレでしょ。」

「そうや、あと40バーツもどこにあるんや!」

「・・・!!そうだ、じつは、ご飯大盛りにしといたのよ(笑)。」

!!!!!

「えっ?」

「ハぁ!?」


「いや、だから私がご飯を(勝手に)大盛りにしといたのよ。」

「いや、それで40バーツ? え!? しかも頼んでないし?」

「とにかく、だから合計するとそうなるのよ(笑)」

「ハぁ・・・。ワカリマシタ、モウイイデス。」


こうして最大の危機を乗り越えた、
オバちゃんは満面の笑みでその場を去って行きました。

「だめや、あのオバちゃんには会った時点で負けとったんや」

そう落胆する私たちをよそに、
地平線に沈む夕日はただただ美しいのでした。


PS

その数時間後、何事もなかったように
「明日の朝食だけど・・・」

と言って満面の笑みでメニューを出してきたオバちゃんに
怒りを通り越して、尊敬の念すら持った私たちでした。

以上

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